「あぁ、びっくりしたぁ。どうしはったんですかぁ?」
「いや、別に。なんでもないんですよ。ほな」
そう言って、びっくり顔からやや笑顔になったナリを横目に慌てて走り去るオレ。そう。彼女を気にしているオレ。OA課でお茶をいただいているうちに、彼女を目で追う自分がいた。何より彼女には、彼女の香りがあるのだ。香水だろうが、オレはその名を知らない。その残り香を引きづりつつ、記念事業部へ入っていった。
その日の終業後。めずらしく30分ほどの残業をして帰路についたオレ。社を出て最初の横断歩道で自転車にまたがったまま信号待ちをしていると、あの香りがただよってきた。香りの元を探して横を向くと、ナリがやはり自転車でオレの方へやってきたのだ。
「Kさん、おつかれさまです」
「おつかれさまです。今朝はすんませんでした」
「あぁ、別にいいですよ。ちょっとびっくりしただけですから」
と笑顔で答えるナリ。その笑顔を見て、オレは唐突に言った。
「外川さん、よかったら今日ゴハンでも行きませんか?」
今朝以上にびっくりした顔のナリは
「・・・いきなり言われても・・・、でも今日は友だちがウチに来ていっしょにゴハン食べる約束なの。だから、ごめんなさいね」
「あ、いいんですよ。いきなりですもん。すんませんでした」
「いえ、また今度誘ってくださいね。あ! 青ですよ」
信号が変わっていた。ふたりとも慌ててペダルをこぎ出した。しかし、しばらく行っても同じ道を走っているので、方向が同じなのかと思っていると
「Kさんもこっちなんですか?」とナリ
「はい。三十三間堂の近くですわ」とオレ
「えぇ!? アタシもそのへんですよ!」
「おぉ!? 奇遇ですね~」
「カワブチっていうスーパー知ってます?」
「はい。ボクもときどき行きますよ」
「今からそこでお買い物するの」
「じゃ、ボクも帰り道なんで、そこまでいっしょに行きましょう」
と言って、しばらくとりとめもない話をしながらいっしょに走った。そして、スーパーの前まで来ると、ナリはその前に自転車をとめながら
「じゃ、おつかれさまでした!」
と笑顔で中に入っていった。またしても彼女は残り香をオレに残していった。


0 件のコメント:
コメントを投稿