「うんうん、いいやんねぇ」
というような会話が休憩室では連日交わされていたらしい。嘱託は、準社員扱いで年度の途中で採用されることも多い。オレの場合も5月の連休明けからの出勤で、OLさん方の新人品定めの一息ついた頃のイレギュラー的存在だったようだ。
そんな5月も終わりの夕刻、社の駐輪場から自転車で帰宅しようとしていたオレを呼ぶ声が聞こえた。声のする方を見上げると、その休憩室の窓からナリと受付のタケダ嬢、ナリの親友で嘱託のアキタ嬢が手を振って
「Kさ~ん! お疲れさまで~す♪」
と叫んでいるのが見えた。顔から火が出るような恥ずかしさを感じながら、ペコっと頭を下げつつ猛スピードで走り去った。
恥ずかしながら自分はモテる、そんな意識はそれなりにあったのだが、経験値があまり高くないことからどう対処していいかがわからなかった。大学時代、サークル等でも新入生には常に一番人気だったらしいが、後から友人にそれを聞くまではまったく無頓着なもので、アタックされてることさえもわかっていなかった。
そんなことがあった数日後、同じ大学でひとつ先輩だったヤマダの誘いで呑みに行くことになった。
河原町通りの大型CDショップ前の待ち合わせ場所に行くと、そこには先日のタケダ嬢とアキタ嬢がいたのだ。事態が飲み込めないオレ。しかし、あえて無表情を装って、
「あれ? タケダさんにアキタさん? なんで?」
「えぇっ!? ヤマダから聞いてへんの?」
「いや、呑もうやて言われただけなんですけど」
そんな会話を交わすオレたちに、ニヤニヤ笑いながらヤマダがやってきた。ヤマダはオレたちの言うことには耳を貸さずに、
「さ、行こうや。オレ腹へってんねん」
と木屋町に向かってさっさと歩き出すヤマダ。なんやかんや言いながら、そのうしろをオレたちはついて行った。そして入ったのは、東木屋町にある学生コンパがよく使うチェーン店系の居酒屋だった。このときヤマダが、まんまとオレを利用したことは後で発覚するのだが、そのときはまだ不慣れなオレを気遣って社の女性方とこういう親睦の場を持ってくれたのだと思っていただが・・・。


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