「へ? なんでですのん?」
「お願い! 絶対よ!」
「まぁ、そう言わはるんやったら、そうしますけど」
「よかった~!」
理由もわからず、タケダ嬢にそう言われ従っただけだったのだが、後日おなじことをナリにも言われることになるとは、このとき思ってもいなかった。
ロックのジェムソンを呑むオレに対して、モスコミュールを呑むタケダ嬢の呑みっぷりは豪快だった。オレの一杯に対して二杯半というようなペース。オレより酔いの回りが早いことは言うまでもない。オレの肩にしだれながら
「ねぇ~、Kさん♪ 彼女いてるん?」
と甘えてきた。オレは正直に
「いませんよ」
と答えると、タケダ嬢はトロンとした目でオレを見つめながら
「ホンマに~? じゃあ、アタシとアキタとナリやったら、誰が好み~?」
唐突な質問に、うろたえるオレは
「えぇ? そんなん答えられませんよ」
と言うのが精一杯。
「アカン~! ちゃんと答えなアカンて~!」
「ぢゃ、とりあえずタケダさんにしときますわ」
「うれし~~~♪ て、とりあえずてなんやのん!?」
「だって、タケダさんとアキタさんとちゃんと話したのは今日が初めてですやん? で、アキタさんはヤマダさんの一点買いやし、外川さん(ナリの苗字)はまともにしゃべったことないですもん。タケダさんて言うしか答えようがないですわ」
と、言って横を向くと、タケダはすでに沈没していた。オレの肩に顔を押しつけながら寝息を立てている。カウンターの中では、オールバックが苦笑しながら
「あ~あ。タケちゃん、またかいな」
と、いつものことだという顔で言う。そして、オレの方に向きながら、
「そのまま、そ~っとカウンターで寝かせててええですよ。店閉めるときにつれて出ますから」
というオールバックに、その真意をはかりかねていると、
「いや、勘違いせんといいてくださいよ。そんなんちゃいますからね。いつもこうなんで、ボクが帰るときに河原町通りまでつれてって、タクシーにのせて、行き先言うだけですよ」
「なるほど、大変やね」
「まあ、大事なお得意さまですからね」
と笑う。そのヒトコトで安心したオレは
「じゃ、もう一杯いただいてええかな?」
「はい! よろこんで!」
と居酒屋の店員の真似をして笑う。オレもつられて笑いながら、グラスに残ったジェムソンを呑みほし、オールバックに差し出した。それと同時に、カランと音がして新たな客が入ってきた。女性のふたりづれだった。
「お~! ここや、ここ!」
オレたちより前からいた40近い感じの男が、オールバックの「いらっしゃい」より先に手を上げながら声を発していた。その声に、男とふたりづれの女性にすばやく目を向けると、片方の女性が目を見開いて言った。
「あれ!? Kちゃん?」


0 件のコメント:
コメントを投稿